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浄化してしまいたい

思い出したくない嫌〜なエピソードをネタにして浄化する

元プロ野球選手の人が講演会に来た

中3の時、どういったいきさつかはわからないが、元プロ野球選手のNさんがうちの学校に講演会に来た。今から30年近く前の話である。

夏服ではなかったので多分、夏休み前だったと思われる。

 

わたしは今も昔も色々なことに興味がなく、芸能人や音楽やましてやスポーツなどよく知らなかったし知ろうともしなかった。

(ただいつもテレビがついているうちだったので最低限のニュースやバラエティは見ていたが。最低限て何?)

 

だから、今度Nさんが学校に来るぜ!とどよめいていたクラスメイト達を横目にNさん…?そんなに人気者なのかな?と思っていた。

 

講演会は学校からほど近い体育館で行われた。

田舎の中学にNさんのようなスターが来てくれるなんて!と生徒たちもだが先生たちもウキウキを隠そうとしなかった。

(学校一若くて可愛い先生が、見たことないピンクのスーツに同じ色のリップを合わせていて、それを見たチャラい系の男の先生に「若いのは服だけだよな!」といじられマジで拗ねていたのを覚えている)

 

パイプ椅子に座った300人程の生徒達がわっ、と歓声をあげると、後ろからニコニコしながらNさんがやってきた。

 

「Nさんてあの人か〜!テレビで見たことあるわ〜!」

その時点でやっとわたしはNさんの顔と名前が一致した(けど、Nさんの経歴について詳しいことはわかっていなかったし今もよく知らない)

 

今となっては内容こそ良く覚えていないが、色々な苦労や経験をしてきたNさんの話は面白く、いわゆるヤンキーも今で言う隠キャの子たちもNさんの話に耳を傾けていた。

 

そんな中。だいたいのことを語り尽くしたNさんが、

「じゃあ、何か質問がある人〜!」

と突然の質疑応答タイムを始めた。

 

(こういうのって、大人になってからも往々にあるけど、すんなり質問する人ってあんまりいない気がする、そう思うのはわたしだけなんだろうか)

 

ましてや田舎の中学生相手が、元プロ野球選手のNさんに個人的に話しかけるなんて…

 

ざわつくだけで誰も質問しようとしない魔の時間が過ぎて行く。

 

その間を埋めようとしたNさんがこう言った。

「じゃあ、逆指名しようかな…3年1組、出席番号1番の人!」

 

一気に盛り上がる(どよめく)会場。

だが、逆指名された3年1組1番の子はえっ?え〜っ?!と困っているだけで、何も言えない(そりゃそうだろう…)。

 

先程とは比べようがないほどどよめき、凍りついた時間が過ぎて行く。

 

あの子かわいそうにな〜とか思いながらNさんを見ると、

「困ったな〜困ったから水飲んじゃおうかな」と今まで口をつけなかった壇上の水を飲み始めた。

 

結局、3年1組1番の子は何も言えず、もういいよ、と言われて座ったが、そのあと

「じゃ、他に質問ある人〜」

とNさんがまた言い出した。

 

…いや。ねえだろ…

 

またさっきと同じ凍りついた時間が過ぎるのかと思うとなんかこうムズムズしてきた。

 

ざわざわしている中、わたしは思い切って手を挙げた。

 

「はい!そこの女子〜」

 

Nさんがすぐにわたしを呼んでくれた。

 

覚えてないけど、えっ、だかわっ、だかの声が聞こえた気がする。質問するべく、わたしが立ち上がろうとしたその時、

 

「江口!お前、去年Nさんが〇〇海岸に遊びにきてたの本当ですか?って聞けよ〜!」

 

小声で同じ列に並んで座っていたヤンキーグループ(?)の奴らがニヤニヤしながらヒソヒソ声で言ってきた。

 

奴らは普通に話す友だちだけど、いつもわたしのこといじっていて(いじめられてはいない)、下に見られてんだろうな、と常々思っていた。

 

一瞬、頭に血が上った。

 

あ?

聞きたいことがあればてめえが手を挙げて質問しろよ。

貴様らの言いなりにこのあたしがなるとでも思ってんのか?

あとそれ超絶つまんねーから。地元の海にNさんが来たからって何なんだよ?内輪ネタで盛り上がるのなんておまえら4人くらいだから。

このズベ公共が。

 

言葉にはせず、一瞬そいつらを睨むと、驚くほど冷静になれた。

 

「3年4組の江口です。

わたしは今バスケ部に入っていますが、練習がキツすぎて辞めたいと思ったことが何度もあります。

Nさんは野球をやめようと思ったことはありますか?」

 

うって変わってざわめきはなくなり(聞こえなかっただけかもしれない)、会場のみんなが聞いてくれているように思えた。

 

Nさんは質問に丁寧に答えてくれた。

 

自分は野球が大好きなこと。

辞めようと思ったことは一度もないこと。

でも、色々な理由で(怪我や経済的なことで)辞めるしかないかもしれない窮地にたったことはあること。

 

だけど、そこで辞めたら絶対に後悔すると思っていたから辞めなかったこと。

 

そして最後にNさんはこう言った。

 

「だから江口さんもバスケ部は辞めない方がいいよ。きっと後悔すると思う」

 

私がお礼を言うと、拍手が聞こえた。

 

わたしはヤンキーグループの方はあえて見ないようにして椅子に座った。

 

 

「他に質問ある人〜」

 

まだやんのかよ?!とちょっとびっくりしたが、ちょっと間が空いてから生徒会長だったカジ(前記事参照)が手を挙げ、「Nさんはどんなお友達がいますか」と、なんかもっとあるだろう、みたいな質問をするのを、それに「うーん、友達かあ〜」とちょっと困ってから、ユーモアを交えながら答えていたNさんを見ていたら、時間が来たらしく、講演会はおしまいになった。

 

あの後、言うことに従わなかったわたしになんか言ってくるかと思ったヤンキーグループは何も言ってこなかったし、学校一厳しかったバスケ部の顧問に辞めたいと分かったらやべーかなとか思ってたけどそれも特に何もなかった(バスケ部にわたしはいてもいなくても変わらない存在だったし)。

 

カジに至っては正直勝ったとすら思えた。

生徒会長のプライドだかなんだか知らないけど、私の二番煎じでももうちょい良い質問したら?ってね。

 

 

もう誰も覚えてないであろう、あの時の記憶ではあるが、デブで天パでかわいくなく、優秀でもなく、いじられキャラでも何とかここまでやって来れたのは、あの時の会場の空気を変えることができたというささやかな自信が支えになっていたのである。

 

(Nさんを良く知らないのに質問するのも失礼だった気もするが)

 

 

その後の人生で研修会などで同じような場面に出くわしたことが何度かあるが、その度になるべく早めに質問をしてあの空気にならないようにしていたが、就職した職場の後輩から

「江口さん、研修中爆睡してたのに、よく質問することありましたね」と言われ、引きつり笑いしか出なかった。

 

所詮わたしはその程度の奴なのである。