むっちゃん
中学の頃。
バスケ部に所属していたのだが、同じバスケ部にむっちゃんという男子がいた。
そいつはちょっと人目を惹くような美男子で運動神経も良く、部でも活躍していたし、お祖父様が町の有識者であり、人懐っこい性格だったので、田舎ではわりと有名で特に年寄りからは可愛がられていた。
が、びっくりするほどバカであった。
勉強が得意ではないという意味ではなく(実際出来なかったけど)、人としてバカだった。
読み書きも怪しいレベル、でも「むっちゃんだからな」と周りが納得させられるような奴。
しかし、そこがある意味愛されキャラとしてじいさんばあさんに可愛がられる所以だったのだろう。
実はこいつにもセクハラされていた。
中1の頃、巨乳ということでクラスのある男子に堂々と胸を触られ、そのうちにこっそり他の男子にも触られるようになってしまったのだが、むっちゃんもその一人だった。
こいつにはプールの時に近くに来てはニヤニヤして、水中で水着をずらされ生乳を突かれたこともある。
一番ひどいセクハラだったかもしれない。
(この時も面と向かって文句をいわず、逃げるようにプールから出た気がする。水中で金玉潰しておけば良かった)
その後も、むっちゃんはちょいちょいちょっかいを出して来た。わたしではなく、わたしのお乳に。
「一緒に帰ろうぜ」
ある冬の日、同じ地区で帰り道が途中まで一緒だったので、いつもは友達と帰ってたんだけど、たまたまむっちゃんと2人で帰ることになった。
相変わらずニヤニヤして落ち着かないむっちゃんは、何故か通学路から外れた人気のないところへわたしを引っ張るように誘導して行く。
流石に怪しいと思い
「ちょっと何よ⁈もう帰るからね!」
と手を振りほどくと、むっちゃんは
「なんだオラァ〜〜!」
と訳の分からない雄叫びをあげて、わたしの股間を下から掴みあげてきた。
そして間を置かずにわたしのコートのボタンを外し始めたところで、耐えられず、涙が溢れた。
「あーごめんごめんごめん…泣くな泣くな」
むっちゃんはそれ以上は手を出そうとはせず、わたしは背後でごちゃごちゃ言ってる声を無視して振り返らず泣きながら帰った。
今まで学校でセクハラされても家まで引きずることは無かったが、その日は生まれて初めてそういう意味での身の危険を感じ、家でも涙が止まらなかった…
あの時、こんな目に遭っていても本気で怒ったり、誰かに訴えたりしなかったのは、やっぱり「こんなの大したことじゃないし」
と強がっていたからなのかもなと今なら思う。
可愛くないし、自他共に認めるおデブキャラだったわたしだが、プライドは多分人一倍(無駄に)高かった。
嫌なことも、理不尽なことも、平気なふりをしていく中でいつしか本当に耐性がついて平気になることを、この時わたしは覚えたのだ。
これは決して良いこととは言い切れないが。
少なくとも、その先の人生でメンタルもフィジカルも崩さずにやっていけているのは、案外中学の頃の経験が影響しているのかもしれない。
(でもこれらの経験に感謝しようとは思わないし、出来ないよね)
むっちゃんは今も地元にいて、祭りでよく見かけるのだがあの頃の面影はあれどだいぶ肥えていた。
聞くところによると何度か結婚して5人くらい腹ちがいの子がいるらしい。
いつかの同窓会で
「おまえがやりたいんだったらやってもいいよ」
と、そんな話題になってないだろというタイミングで言ってきやがったので
「やりたくねえよ」
とだけ答えておいた。