カナミちゃん
新卒で就職した職場の同期はわたしを含め6名ほどいた。
仕事柄女子ばかりだったが、皆都会育ちだったり、良い家のお嬢さまだったりと、垢抜けている印象だった(わたしと違って)。
その中にカナミちゃんという子がいた。
第一印象はよく喋る子だな〜と思っていただけでちょっと苦手なタイプだった。
(ちなみに同期の中ではわたしの次に顔面偏差値は高くなかった。ほかの同期の子たちがべっぴん揃いだっただけだと思いたいが…)
何が苦手って、喋る内容がどうも下品なんだよね。彼氏と別れた話とか聞いてもいないのにこと細かにガンガン話してくるし、その次に出会った男性に自分から迫って無事ゲットした内容も同期みんなに事細かに報告してくれるけど、いやに生々しくてわたしは引き気味だった。
(観覧車の中だかで自分からキスして「もうあなたでいいわ!」と言ったとかなんとか。しらんがな)
でも悪い人ではないし、基本真面目な職場だったので、アラサーの歳までみんなで仲良く働いていた。
カナミちゃんは事あるごとに、良い男性をゲットして早く結婚したいと言っていて、周りのみんなも食傷気味だった。そして人の恋バナも大好物で根掘り葉掘り聞いてくる。
(もっともわたしには浮いた話などなかったんだけども)
その様が実際の年齢以上に見えたし、ブランドバッグやブランド服を身につけオシャレにもしていたのに、いまいち上品に見えなかったのが、自ら女を落としてるようでなんか勿体なかった。
しかしカナミちゃんは、私から見たら痩せてはいないまでも太ってはいない部類に入ると思うのだが、何故か他の先輩方からは「カナミちゃんと江口さんって入社当時見分けつかなかった」と後から言っていたのを聞いたので、実はあまり大差なかったのかもしれない。
そんなこんなで隙あらば恋愛トークと下世話な話ばかりしていたカナミちゃんだったが、ついに結婚が決まった。
嬉々として結婚式場の見学やら、両家顔合わせの話をふーん凄いねーと真顔で聞いていたがカナミちゃんはこちらの反応なんて目に入っていなかったので常に嬉しそうだった。
んで、同期のよしみで結婚式で余興を頼まれた。5人であれこれ話し合い(こういうのは割とノリノリで楽しめるメンバーだった)、当日は笑いから涙を誘う良い余興ができ、私たちとしてはやり切った感があった。
(その上何故か私は二次会の司会まで頼まれて何度か打ち合わせもしたし当日もなかなか忙しく動き回っていた)
カナミちゃんも披露宴〜二次会まで無事に終わり感謝してくれていたようだ。
その年の年度末。
「ちょっとちょっと」と、ニヤニヤしながらわたしを人気のないところに呼び出しカナミちゃんはこう言った。
「私、今年度で仕事やめることにしたから。子どもも欲しいしね〜」
まあそうなるだろうなとは薄々感じていたので
「あ〜そうなんだ。でも丁度いいタイミングかもしれないね」
「江口もそろそろ将来のこと考えた方がいいよ」
…わたしが返事を言い切らないうちにカナミちゃんはこう言ってのけて、ニヤニヤしながらじゃあね〜と消えていった。
一方的に「言い逃げ」されたわたしはポカーンである。
今の言葉でいえば「マウントを取られた」ということなるんだろう。
ポカーンの後にワンテンポ置いてムカついてきたわたしは、2個上の美人先輩(えれえ美人だけど性格キツい)に思いっきり愚痴ると
「はあ?!何でアンタにそんな事言われなきゃいけないんだよ!って話だよね!!」
と共感してくれたので少しスッキリしたけど、カナミちゃんはわたし以外にはこんなこと言わないんだろうなと思うとやはりモヤモヤは消えなかった。
その後、仕事で振袖を着る機会のあったカナミちゃんが、昼食時に弁当を囲みながらはしゃいでいつもの如く盛り上がっていた時に、
「え〜ソースがはねると振袖が汚れるから開けられな〜い、江口〜このソース開けて〜」
とかほざきやがって(この時振袖を着ていたのはカナミちゃんたち5人くらいで他はわたし含めスーツだった)、流石にこの時は一瞬で頭に血がのぼり例の如く感情の全てを表情に出したわたしを見兼ねた1個上の先輩が
「あ…あたし開けるよ…」
と咄嗟に手伝ってくれて(この方にとってカナミちゃんは後輩)凍りつきかけた空気を溶かしてくれようとしたのに
「他にもソース開けて欲しい人居たら言って!わたし開けるから!」
…と結局ソースいっこも開けてないわたしが同じ表情で言い放ちアナ雪かってくらいその場を凍らせたこともあった。
そんなこんなでサシで会うことはないけどその後も同期で会う関係は続いており、
(急にランチ行こ〜と連絡きて3人で会ったら案の定妊娠報告だったり)
このマウントを取りたがる姿勢のブレなさに逆に感心してしまうほどである。
現在二人のお子さんに恵まれ普通に家族を支えているらしい。
わたしが結婚もせずその会社を13年勤めてから辞め、一般の(ブラック)会社で働いていた時はしきりに
「江口にはそれが似合ってるよ」
と言っていた。
…とかなんとか言ったって、あんたの仕打ちは忘れた訳じゃねぇからな?!おおぅ?!
こうして出汁が無くなるまでしつこくネタにするのが、わたしのストレス解消法です☆