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浄化してしまいたい

思い出したくない嫌〜なエピソードをネタにして浄化する

トコ姐

新卒で就職したところは圧倒的に女性が多い職場だった。

 

綺麗な方が多く、華やかな雰囲気ではあったが、わたしは相変わらずそういったキャラにはなれず仕事も要領を得ず周りに心配ばかりかけていたが並外れた肝力と鈍感力のみでなんとか乗り切っていた。

 

大学で取得した資格の仕事に就いたため、同僚は同世代の女子ばかりだったので、すぐに打ち解け、プライベートでもみんなで遊びに行くようになった。

 

そんな中、2年目あたりから急激に仲良くなったのが、1年先輩のトコ姐であった。

 

トコ姐は好奇心旺盛で付き合いが良く、フットワークが軽かったので、休日に出かけたりホームパーティをしたりと、サシで遊ぶことは先輩なのもあってあまりなかったが、みんなでワイワイやる中には必ずいた。

 

仕事に対しても真面目な方ではあったが、どうにも酒癖が悪かった。

 

社員旅行では来年から責任のある仕事を任されてしまうことを嘆き、ベロベロに酔っ払っては泣き出し、励ましに来た上司(10歳上の無駄に熱い男性)に「だって不安なんだもん」と普通に泣きながらタメ口を聞いていた。それを見ていたトコ姐の同期(女)はなんとも言えない顔で離れたところで見守っており、大丈夫ですかね…?と言うと「あの子ね、いつもああなるの。そっとしとけばいいの」と呟いていた。

 

そのあと温泉に行ったら何故かトコ姐が露天風呂の岩を全裸で登ろうとしていたので、わたしも全裸で止めた気がする(トコ姐は何故か大人しくおりてきた)。

 

そんなトコ姐だったが、何事にもまっすぐすぎるところがあるのが付き合い続けるうちにわかってきた。

自分があると言えば聞こえは良いが、譲らないし思い込みが激しい。思う通りにならないと空気も読まず自分の感情を優先する女だった。

 

思い出すのが、わたしより2年、トコ姐より1年先輩にあたる同僚(美人)が酷い男と付き合っていたとのことで(つっても1回くらいしか会ったことはない)、そのがっかりエピソードを2人で聞いていたら、トコ姐がマジ切れしだして後日その美人先輩の彼氏に「こういうところ、酷いと思います!」という内容をしたためた手紙を送ったらしい。

 

これにはドン引きした。美人先輩(かなり気が強い)もドン引きして何も言えなかったらしい。

(←言っておくが美人先輩の彼氏だって暴力を振るったり金を奪ったりした訳ではない。記念日を忘れたとか電話しても繋がらない程度のしゃらくせぇ愚痴というかのろけを聞かされただけである)

 

それが原因ではないが、美人先輩はこの彼氏とは別れていた。

 

一方、わたしとトコ姐は彼氏がいなかった。

トコ姐の方は以前はいたらしいが、わたしはその時点で一度も彼氏ができたことはなかった。なので、必然的に合コンに一緒に行くことが増え、サシで会うことも増えた。

 

合コンでは相変わらずわたしはうまくいった試しは無く、こんなもんだよねと半ば諦めてその場を楽しむことに集中していたが、トコ姐は結構本気だったみたいで、後日会ったりすることもあったようだが、付き合うまでは至らなかった。

 

そんなこんなでフリーダムを謳歌(?)していたわたしたちは、ある夏海へ旅行に行き、ナンパされ、その時の男子と仲良くなり、後日新宿で会う約束をした。

 

わたしは旅行以来初めてそのメンバーと会うので、気に入った男子などいなかったがそれなりにその飲み会を楽しみにしていた。

 

実はトコ姐には気に入っていた男子がいて(F君とする)、新宿で会う前、旅行の後に2人で一度会ったらしいのだが、もう一度会うか会わないか、の微妙な時期だったらしく、今思うとトコ姐はかなりその飲み会に気合いを入れていた。

 

いよいよ飲み会の日。

 

幹事だったわたしにF君が来れなくなったと連絡が来た。トコ姐と会場に向かう道すがら、雑談の中で「そういえば、F君今日は来れないみたいです」と言ったら、トコ姐の表情が変わった(ような気がした)。

最初気付かず別の話を続けていたら、「ちょっと待って、それってどういう意味…?」と険しい表情で言った。「私に会いたくないってこと?」

 

いや、知らんし…わたしF君じゃないし…そこそんなに深い意味あるの…?

 

それまでのトコ姐とF君のことを詳しく知らなかったわたしにトコ姐は不機嫌を隠さなかった。

 

 

そのまま飲み会が始まり、それなりに楽しく過ごしたが、トコ姐は一人で歩けないほど酔っ払い皆で介抱しながら帰宅した。(その時のメンバーとは二度と会うことはなかった)。

^_^?な

その後、また別の合コンにトコ姐を含む何人かで参加した後。

 

何故か職場でトコ姐の私を見る目線が険しくなり、トコ姐との会話が全くなくなった。

 

正直気付いていなかったのだけど、「機嫌悪そうだけどお腹痛いのかな」くらいしか思っておらず、いつものように過ごしていたのだが。

 

1週間ほど過ぎた後。

トコ姐が痺れを切らし、私に引きつった作り笑顔で話しかけてきた。

「あのさぁ。私この間夢見たんだよね」

はあ…と私が声に出す前にトコ姐は続ける。

 

「江口ちゃんにトコ姐はF君からD君に乗り換えたんですよね〜って言われてさぁ」

 

ここで説明しよう。

D君とは直近の合コンでトコ姐が出会い、たぶん何やらあった男子である(らしい)。

 

もう一つ説明しよう。

「F君からD君に乗り換えた」と言ったのは、わたしではなく、トコ姐の夢の中のわたしである。

 

「あ〜っ、うそうそ。何でもない。もういいから!ごめんねぇ〜」

 

慌てて掌を返すように、今の話をなかったことにしようとするトコ姐。ここまでわたしはひとことも発していない。

 

 

だが、表情に出ていたようだ。

 

は?

なにそれ?

そんなこと言ってねえし思ってもねえよ。

そんなテメェの妄想の話で勝手にわたしに怒ってたのかよ?

 

「もういいからね、本当に〜」

と言いながらトコ姐はそそくさと去っていき、その後は何事もなかったかのように接してきた。

 

わたしは結構上下関係をきっちりする方で(実は体育会系だった)、トコ姐に限らず先輩にはどんなに仲良くなっても敬語を使っていたし、なんなら後輩にすらそうだった。仕事に対しての自信の無さから、先輩のアドバイスは厳しくても真摯に受け止め(るふりをし)ていたのだが…

 

この時のトコ姐の仕打ちには感情のコントロールを利かなくさせられたのだ。

 

あのトコ姐が一瞬で自分の独り相撲だったことを理解したのだから、鬼の形相だったんだろうなぁ、わたしは。

 

それからわたしもトコ姐とつるまなくなる…なんてことはなく、性懲りも無く遊んだり合コンしたりしていたのだが…

 

もうトコ姐に深い話をすることはなかった。

 

そしてこのエピソードを面白可笑しく後輩や友だちに暴露してはその場を盛り上げる、という同じ鰹節で何度も出汁を取るような行為を未だに続けている。

 

良い出汁が出るんですよ、未だに。