花さん
小学校からの友人で花さんという女の子がいた。
長くて綺麗な髪をいつも一つに結んでいて、天然パーマのショートカットで性別不明だった私はまっすぐな長い髪でいいな〜とは思っていたが、あまり清潔感はなく(オイリーだった)、全体的に冴えない子だったのは否定できない。(わたしと同様に)
だがお喋り好きで、その声とたたずまいがなんとなくサザエさんの花沢さんに似ていた。(だから花さん)
基本的にいい子だし、本を良く読んでいて頭も良く、書道を得意としていて字も綺麗だった。
なのに何故かノートは汚かった。
(筆圧が強すぎて擦れた跡で真っ黒になっていた、そしてそれを気にしていなかった)
わたしも衛生観念があまりない方だったけど、花さんは幼少期のわたしから見てもたまに引く程度には身だしなみとかを気にしない子だった。
そんな花さんともう一人のお友達との3人で、田んぼの畦道や浜の近くを歩き探検したり、どんぐりを拾ったり四つ葉のクローバーを探して遊んだのは楽しかった。純粋だったあの頃の良い思い出である。
花さんとは高校では離れてしまい、中学での部活も違ったので殆ど会うことはなくなったが、大学生になってから電話がかかってきてたまに話すようになった。
が、その話が長い長い。
今となっては思い出せないようなささいなことを喋る喋る。
正直2度ほど寝落ちしかけたし。
わたしも話すのは嫌いではないけど、何しろ自分のことばかり話すものだから相づちをうつだけで一方的に話を聞くのみだった。
しばらくして、また花さんから電話が来て話を聞いていたら、今度は何か相談があるとのことだった。
「今すごく気になる男の人がいるんだけど、その人が〇〇大出身なんだって!これはえぐに相談しないとと思って!」
…いや、わたし〇〇大じゃないし…。
(どうやらうちの両親が〇〇大で知り合ったのをわたしが話したことがあったから言ってきたらしい。それでも遠すぎてわからないけど)
「本当にいい人で、カッコよくて、優しいし付き合いたいんだけど」
息もつかず喋りまくる花さん。
「どうやったら付き合えるかな〜?」
…いや、知らん。現時点で男性との交際経験なしのわたしに聞かんでくれ…相談相手間違えたよ花さん…
「優しい人だから、多分一度寝たら付き合えると思うんだよね〜。そういう媚薬とかないかな〜?」
………。
「大学の友達に相談したら、「花さん、これ以上嫌な女にならないでね」って言われちゃって〜」
………なんだこいつ………。
大学生になって、花さんはすっかり違う方向に垢抜けたようだった。
それとも今思うと「私こんなに異性関係派手なのよ!」っていうマウンティングだったのかもしれない。
ただ、その話が盛ってあったにせよ(恐らく花さんは言ってるだけで一服盛って逆レイプなどは実行していないはず)、わたしはドン引きしてしまったし、気持ち悪りぃなこの女…という目で見てしまった。(それは未だに変わらない)
それから社会人になり、帰省中に会おうと声をかけるもタイミングが合わず、噂は聞くが会うことはなくなってしまった。
一度上野駅で偶然会い声をかけた時、「よく私だってわかったね〜!」と驚かれたが、その後の反応はいまいちだった。
(ふ〜ん、とかへ〜、くらいしか言ってなかった。嫌われてたんか?!)
あれから10年以上経った今、帰省した時に夫と息子の3人で散歩をしていて、花さんの実家近くを通りかかった。
良く遊びに行った家はなくなり、新築の平家が建っていた。
田んぼのあぜ道を通りながら無意識に四つ葉のクローバーを探したけど、見つからなかった。