カジ
中学になった頃。相変わらずガタイが良く色気もなくお世辞にも派手とは言えないフェイスであったことをかなり早い段階から気づいており、ならばということでおもしろ方面で勝負していたわたし。
人前で話すのも人を笑わせるのも嫌いではなかったので、どちらかといえば明るく目立つ方だった。
けれど、決してリア充ではなかった。
「友達がいるから」という理由で当時学校で一番きついバスケ部に入ってしまい、当然スタメンなぞにはなれず(なりたくもなかったし)、毎日走りたくもないのに走らされ、その割には全然痩せないじゃねーかちくしょう、と思ってたら引退と同時に10キロ太った。
そんな部活やら勉強やらに仕方なく勤しんでいた思春期真っ只中、わたしは「巨乳」という嬉しくもない称号を手に入れてしまい、違う意味で有名になった。
ここで説明しておくが、お乳が大きいことでマウントを取っている訳ではなく、ただのおデブあるあるなだけである。
男子とも気軽に喋れるキャラだったからかどうかはわからないが、ある一人の男子から執拗に堂々と胸を触られ続け、気にしたら負けだと思い無理矢理気にしないようにしてやり過ごしていたら他の男子にもこっそり触られるようになった。
今考えると何でずっと黙って怒らなかったんだろう…?と自分のことながら不思議なのだが、周りの友達も引き気味ではあったが何も言わなかったし、唯一フォローしてくれた子は「今は辛いかも知れないけど、大人になったら胸が大きいと得すると思う」と正論なんだかトンチンカンなんだかわからないことを言っていた。
それくらい、ちょっとアレな状況だったのだろう。
昨日も今日も毎日触ってくる例の男子はまあいいとして(良くはないが)、一番タチが悪かった男子がいた。
それがカジである。
カジは昔からチビだったが、バスケ部キャプテンで成績もそこそこ良かったので、2年になってから完全に調子に乗っていた。
中学でスポーツ部のキャプテン若しくはエースとなればそれだけで他校の女子にモテていたらしい(その割に何故か校内での噂は聞かなかったが)。
そのカジは生徒会なぞもしており、役員の一人だったわたしはある日生徒会室で2人になった。
「俺、この間血を吐いたんだ」
「もうヤバイかも知れない」
「お前が夢に出て来たんだ」
みたいな(嘘くさい)話をされ、告白とまではいかないがそれを匂わせることを言われた気がする。
嬉しくなかったと言えば嘘になるだろう、色気も顔面も運動神経も普通以下で恋愛など対極にあるようなわたしだったのだから。
だが、戸惑った。
戸惑っているうちに、抱きつかれ、しばらくの間胸を触られていた。
カジの告白(?)は、胸を触る口実だったに過ぎなかったのだ。
その後も
「お前と同じ高校行きたい」
とかなんとか2人だけの部室や生徒会室で言われては胸を触られる、といった碌でもねぇ時間が何度かあった。
だが3年にもなると部活も引退して完全に「なかったことに」なった(というか、した)。
ここでもどうして何も言わなかったのか?!
仲のいい友達に言いふらして社会的にカジを抹殺しても良かったのに…と悔しい限りだがまあ言えないやなぁ…当時の純粋なJCとしてはさぁ…
そしてカジも「こいつなら周りに言わないだろう」と分かっていたのだろう。
3年の3月期くらい。その後生徒会も部活も引退し特に関わりもなかったカジが急にすれ違いざまに
「俺、1年の〇〇と付き合うことになったから。幸せ絶頂〜!」
と言って去っていった。
カジは何から何まで小さいヤツだった。
しかし15年後、同窓会で生徒代表として挨拶をしたカジはもうチビではなかった。
横にデカくてつるっ禿げになり、同級生たちをざわつかせていた。